第22回JVA審査委員会特別賞
園生 智弘氏
TXP Medical
代表取締役医師
- プロフィール
- 1985年、東京都生まれ。2010年東京大学医学部卒業後、救急集中治療医として、大学・市中病院双方の救命センターで臨床業務に従事。救急外来、医療データベースの構築をテーマに複数の研究、論文執筆を実施。2017年8月に自身で開発したNEXT Stage ERを中心に事業化し、TXP Medicalを創業。順調に事業を拡大し、4年で国内大学病院救命センターシェア30%を達成。救急医療を中心に広く事業を展開し、第22回「Japan Venture Awards」にて、JVA審査委員会特別賞を受賞。
- Q1JVAを受賞した時の感想と応募したきっかけ
- 最初に受賞したと聞いた時は、非常に嬉しく思いました。「Japan Venture Awards(JVA))」は業界内外を問わず名の通ったヘルステック企業も受賞されていますし、その仲間入りができたのは光栄なことだとも思っています。
そもそも、今回のアワードに応募した理由には、会社の知名度を向上したいという思いが含まれていました。
私たちがフォーカスしている救急医療・急性期医療は、一般の方への認知獲得が難しい分野でもあります。なぜなら、年間600万人の救急搬送が発生していますが、平均すると救急車で救急外来に搬送されるのは国民一人当たり20年に1回ほどの割合であり、社会インフラとして極めて重要でありながら、あまり身近なイベントではないからです。また、救急車の中や病院に運ばれた後に管理される情報は、個人情報保護の観点から一般の方の目に触れることはなく、この領域のペインは見えないものとなっています。
私たちのサービスは、全国の救急搬送の50%以上を受けている救急の基幹病院や自治体が運営する救急隊などに導入されていて、業界内では一定の認知度があるものの、世間的にはあまり知られていません。そのため、外から見ると「何をやっているのかわからない会社」だというイメージがついてしまっていました。
しかし、JVA審査委員会特別賞をいただいたことで、銀行や投資家、IPO関係の方々から連絡をいただくことが増えてきています。受賞したことの影響力を、日々感じていますね。
- Q2起業に至ったきっかけと現在の事業
- 起業のきっかけは、救急集中治療医として8年間働いている中で、医療データの管理に課題を感じたからです。医療現場では紙のカルテから電子カルテに変わるなど、データのデジタル化が少しずつ進んでいます。しかし、これまでに紙のカルテで蓄積してきた膨大な医療データは過去に遡って電子的に検索することはできませんし、電子カルテの内部データ形式が統一されていないため、データの利活用が困難です。つまり、現時点ではDXの本来の目的である“医療の質を向上する”ことはもちろん、“医療の質を可視化する”ことすらできていません。医療データを可視化できなければ、医療の質を向上することはできないでしょう。
とはいえ、私一人が電子カルテの問題点を提議したとしても、何も変わりません。変化を起こすためには自ら行動を起こすしかないと考えるようになり、医療データのインフラとなるプログラムを個人で開発し、自分の働く病院内で運用を始めました。その後、事業として成立すると思えるようになった段階で起業したという流れです。
私たちの事業を一言で説明すると、急性期医療の質を向上するための総合コンサルティングサービスですね。その中のコアプロダクトとして、ITシステムを開発・提供しているといった形です。具体的には、病院救急外来のカルテ入力業務支援やICUでの業務効率化、救急医療現場での救急隊と病院間の情報連携をスムーズにするシステムなどを提供しています。
- Q3今後の展望と読者へのメッセージ
- 今後の展望としては、現場に根ざした視点でのサービス拡大に注力しつつ、医療機関や自治体に加えて製薬企業からのデータ関連ビジネスを事業化し、4年後のIPOを目指しています。また、本質的に医療の質を向上するならば、医療システムを開発するだけでなく、急性期医療に関わる医療サービス全体、あるいは保険資料の最適化も進めなくてはいけません。現在スタートしている製薬企業向けサービスに加えて、医療保険業界にもサービスを展開していきたいと考えていて、私の頭の中ではすでにプランが出来上がりつつあります。
データに基づいたより良い医療、最適な医療を提供できる世界を目指し、私たちはこれからも開発を続けていきます。
もしJVAに応募することを悩んでいる方がいらっしゃるのであれば、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。ベンチャー経営をしていても、自身の近い業界以外の経営者と会話・交流する機会はそう多くありません。これまで関わりが少なかった業界の方とお話しするのは非常に面白いですし、私自身は経営者としての視点が広がったように感じています。加えて、経営者には“自分たちの事業をわかりやすく説明して発信する力”も必要です。JVAは、そういったスキルを鍛えたい方にもピッタリだと思います。